母のひとこと

日本香堂のサイトを見ていたら、
母の日に際して、「心に残る母の言葉」を募集するキャンペーンがやっていました。
ああ、なんかこんなの、
本にする企画もどこかであったなあ、と思いつつ、
記憶に思いを巡らせると、

なんか、私にかけてもらった言葉ではないのだけど、
母のひとことですごく教えられたというか、
ひどく納得したというかそんなことを思い出しました。

祖父の葬儀でのことです。

祖父はガンで数年戦った後、
抗ガン剤の副作用か、
副作用からくる食欲不振で体力を奪われて、
結局肺炎で亡くなりました。
本人の気持ちはわからないけれど、
そばで面倒を看ていた祖母や母は、
薬を使わなければよかったとかあの時ああすればよかったとか、
随分悔やむ気持ちがあったようです。

祖父母の家は少し離れたところにあるので、
母は祖父の亡くなった知らせを自宅のキッチンで聞きました。
私はもう結婚して家を出ていたのですが、
祖父の具合があまりよくないことを聞いて、
お見舞いのあと実家に帰っていたので、
母がその知らせを聞いた時、母のそばにいました。
どうしていいかわからなかった。
祖父が亡くなったことも何だか夢の中のことみたいに
どう受け止めていいのかわからずに聞きました。

その後、葬儀の段になり、
出棺の前に釘で棺のふたを打ち付ける前に
最後のお別れをする時、
母が祖父の顔に触れながらこう言ったのです。
「もうさわれなくなっちゃうから、
今のうちにたくさんさわっておかないとね、お父さん」

それを聞いて、
そして、それを思い出すたびに、
人が死ぬということはただ単純にそういうことなのだなあと
思うのです。

直接何か諭されたわけではないけれど、
そういう母のふるまいが私たちに教えてくれることって
たくさんあるし、
それを感じとる気持ちも忘れないでいきたいです。